癒しを急いでしまう理由|イライラ・せっかちを神経系のパターンから捉え直す①【ポリヴェーガル理論】

著作者:wirestock/出典:Freepik

こんなことはありませんか?

  • 些細なことでイライラしてしまう
  • せっかちで、何かしていないと落ち着かない
  • 待つことが苦痛
  • いつも「自分で何とかしなければ」という焦りや不安がある
  • ゆっくり休めない
  • のんびりしている人を見ると、なぜか苛立つ

こうした状態を、自分の「ダメな性格」のせいだと責めてはいないでしょうか

私は、まさにこのすべてに当てはまる人間でした。

そして、そういう自分を「ダメな性格だ」「器が小さい人間だ」と責めていたし、恥ずかしくも思っていました。

この「性格」は、癒しに取り組み始めた時にも、こんな形で現れました。

早く癒されたいと焦ってしまう。

「変わるまで時間がかかる」なんて、耐えられない。

多くの方が、イライラしやすいことや、せっかちな傾向を、「これが自分の性格だから仕方ない」と思っているのではないでしょうか。

けれども実は、それは性格の問題ではなく、「自律神経系のパターン」によるものかもしれません。

この記事では、いま世界中で注目を集める新しい自律神経理論【ポリヴェーガル理論】から、その仕組みを見ていきます。

イライラや、せっかちな「自分の性格」に悩んでいる方

癒しの結果を急いでしまう方へ。

自分を責めるのではなく、理解するための視点として、ぜひ読んでみてください。

目次

自律神経系の「サバイバル(防衛)モード」を知ろう
【ポリヴェーガル理論から】

さて、ここで、私たち人間の自律神経系の仕組みについて少し見ていきたいと思います。

自律神経系は、私たちの「こころ」と「身体」を繋ぐものであり、

循環、呼吸、体温調節、消化、分泌、排泄など、基本的な生命活動を維持し、生存を守るための「生理的な土台」とも言えるものです。

そして、そのはたらきは意志に基づくものではなく、無意識(自律的)に行われます。

さらに、この自律神経系は、

自分の内側と外側の環境に対して、「今は安全なのか、それとも危険なのか」を感知し、反応することにも深く関わっています。

このような視点から自律神経系の仕組みを解き明かしているのが、ポリヴェーガル理論です。

ポリヴェーガル理論は、トラウマのメカニズムと回復のために必要なことを、自律神経系の状態から解き明かすものとして、いま非常に注目を集めています

【ポリヴェーガル理論】は、アメリカの神経科学者スティーブン・ポージェス博士によって提唱された自律神経系に関する理論です。

人間の行動・感情・対人関係などを「神経系の観点」から理解する新しい枠組みとして、現在、トラウマ療法にとどまらず、教育や介護、組織開発など、様々な対人援助の分野で注目されています。

この理論に基づいた視点を持つことで、

  • 自分がいま、どんな状態にあるのか
  • 目の前の人が、いまどんな状態にあるのか
  • そのとき、必要なサポートはどんなことか

といったことが、とても見えやすくなるためです。

このポリヴェーガル理論について解説していきますね。

と言っても、専門的な難しい話ではないので安心してください。

ご自身の状態を思い浮かべながら、なんとなくのイメージで読んでみていただければ十分です^^

ポリヴェーガル理論に基づく、3つの「自律神経系のモード」について

ポリヴェーガル理論は、本来とても複雑な理論ですが、

ここで知っていただきたいのは、次の3つの「自律神経系のモード」です。

分かりやすいように、色で示してみます。

🟢安心して落ち着いている「安全モード」(副交感神経系のリラックス状態)

・主な状態:安心感、リラックス、好奇心、穏やかさ、人や世界との心地よい繋がりなど。

・身体の状態:筋肉の適度な緩み、ゆったりと深い呼吸、抑揚のある声、表情の豊かさ、穏やかな視線など。

・メカニズム:心身が「今は安全だ」と判断している状態。このモードのとき、他者と繋がったり、クリエイティブな思考をしたり、身体の回復(消化や免疫の働き)が促されたりします。

心身が「今は安全だ」と感じていて、回復・つながり・創造ができる状態。

さらに詳しく

ポリヴェーガル理論では、副交感神経系はひとつではなく、以下の2つの系統に分かれるとされています。

[腹側迷走神経系(社会交流システム)]
社会的な交流、つまり繋がりによって安全を感じる状態を支える神経系で、🟢緑の安全モードの中心になります。

[背側迷走神経系(休息・消化システム)]
個体の生命維持のための休息や消化、睡眠などの省エネシステムに関わる神経系。

強い脅威に直面した時は、この背側迷走神経が🔵青の防衛モードとして働きます。

🔴自分が動いて危機を回避しようとする「能動的な防衛モード」(交感神経系の防衛状態

・主な状態:イライラ、焦り、不安、怒り、せっかち(待てない)など。

・身体の状態:筋肉の緊張、心拍・血圧の上昇、速く浅い呼吸、視野の狭窄など。

メカニズム:脅威を察知し、「逃げるか、戦うか」を瞬時に判断し、素早く動くための反応です。車で言うと、アクセルを思いきり踏んでいるような状態。

肉体的な危険だけでなく、人間関係のストレスやプレッシャーなども、心身が「脅威だ」と判断すれば、このモードが作動します。

「危険だ、何とかしなければ」と身体が緊張してフル稼働している状態。

🔵危機が去るのを待つという「受動的な防衛モード」副交感神経系[背側迷走神経系]の防衛状態)

・主な状態:無気力、重さ、だるさ、ぼんやり感、解離(現実感が薄い)など

・身体の状態 筋肉の弛緩、浅く遅い呼吸、無表情、ぼんやりした視点など。

メカニズム:闘うことも逃げることもできない(🔴赤モードが通用しない)ほどの圧倒的な脅威に直面した時に起こる反応です。

心身を一時的にシャットダウンし、痛みや恐怖を感じにくくすることで、脅威が去るのを待とうとします。

いわば「死んだふり」のような、受動的で省エネルギーな防衛モード。車で言うと、ブレーキを思いきり踏んでいるような状態。

「動けない」「やり過ごすしかない」と心身がシャットダウンしている状態。

なぜ「のんびり」「ゆっくり」が不快なのか?

さて、自律神経系の3つのパターンを見てきましたが、

「イライラ」や「せっかち」は、この3つの状態のどれに関係するでしょうか?

🔴赤の「能動的な防衛モード」ですよね。

このときの身体の状態を、少し想像してみてください。

筋肉は緊張し、呼吸も心拍も速くなっている。

身体は、いつでも動けるように緊張して構えている。

いわば、警戒と緊張が高まった状態です。

この状態のときに、「のんびり」とか「ゆったり」という言葉や雰囲気って、どう感じるでしょうか?

違和感や不快感を感じそうではないでしょうか。

🔴赤のモードにある身体にとって、「のんびり」「ゆっくり」は、「今の自分の神経や身体の状態とマッチしないモード」です。

この「状態の不適合(マッチしないこと)」 が、「イライラ」や「待つことへの苦痛」といった感覚として現れている可能性があります。

「イライラしがち」とか「待つのが苦痛」という人は、この 🔴赤の「能動的な防衛モード」が長く続いてきた結果、それが慢性化して「自律神経系のパターン」になっているかもしれません。

そして、「のんびりしている人に苛立つ」のは、

相性や性格の問題というよりも、

自分の神経系の状態とマッチしないという理由から来ているかもしれないということです。

「パツパツ」だから、些細なことにも反応しやすい。

ここで、「イライラしやすい」という状態について、もうひとつ例を挙げて説明してみます。

たとえば、仕事も家事も予定が詰まって「パツパツ」の時。
ちょっとした予定変更や、誰かの何気ない一言に、強いイライラや怒りを感じたことって無いでしょうか。

🔴赤の防衛モードが「パターン」として慢性化している状態は、まさにこの「パツパツで余裕がない状態」が常に続いているようなイメージです。

これは、

そもそも、「余裕(キャパシティ)がすでに使い切られている」ような状態。

こうした状態であれば、小さな刺激にも反応しやすいというのは、なんとなく想像していただけるかもしれません。

ただし、こうした反応は、自律神経系のパターンだけではなく、心理的な要因(潜在意識にある思い込みなど)も関係しているケースが多くあります。
そのためセッションでは、自律神経系(身体)の状態と心の状態の両方にアプローチして、本質的な変容を目指します。

「早く変わりたい」も、実は神経系の状態かも。

癒しや自己探求に取り組むと、

  • とにかく早く変わりたい、早く楽になりたい
  • 「時間が必要」と言われると苦しくなる
  • いつまでこの状態なのかと焦る

そんなふうに、結果を急いでしまうことってありますよね。

私も、本当にそうでした。

苦しい時ほど「早く楽になりたい」と思うのは、もちろん、自然であり当然のことです。

けれども、それだけではなく、🔴赤の「能動的な防衛モード」も影響しているのかもしれません。

トラウマを抱えている人や、ストレスが長く続いてきた人は、この 🔴赤のモードが「自律神経系のパターン」になっていることが多くあります。

このモードだと、心身は「早く危機を抜けたい」「今すぐ何とかしたい」という、切迫したサバイバル状態になります。

つまり、「早く楽になりたい」というのは、

単なる焦りや気の短さではなく、
自律神経系の状態から生まれている反応なのかもしれません。

「実は自律神経系の反応かも」という理解。

ここまで、自律神経系の防衛モードや、パターンについてお伝えしてきました。

  • 些細なことでイライラしがち
  • 常にせっかちで余裕がない
  • 待つことが苦痛
  • 癒しの結果を焦ってしまう

こうした状態に対して、

これは、自律神経系の状態からくる反応なのかもしれない

そんな視点を、ひとつの可能性として持ってみていただけたらと思うのです。

「自律神経系の状態からくる反応」ということは、つまり、
「自分の意思や努力で、直接コントロールして起きている反応ではない」ということです。

これは、心臓や消化などの働きをコントロールしているのが、私たちの意思や努力ではないのと似たようなことです。

今が安全なのか、危険なのか。
そして、どの防衛反応を取るのか。

それらは、頭(認知や思考)よりも先に、

これまでの体験などに基づいて、主に神経生理的なレベルで瞬間瞬間に判断していると考えられています。

つまり、「些細なことでイライラする」という反応も、

「自分がダメだから」ではなく、
「そのときの神経生理的な判断によって、そう反応している」可能性があるということです。

私自身、ずっと自分のイライラしやすい性質を、なんとか抑えようと頑張ってきたし、

けれどもまったく変わらずで、自分のそういう性質が本当に嫌でした。

でも、この「自律神経系のパターン」について知った時に、ものすごく自分の状態に当てはまっていて驚いたし、自分を新しい視点で見ることができて救われたのでした。

同じような方にとって、ご自身を責めるのではなく、理解していくためのヒントになればと思います。

「防衛パターン」についてさらに詳しく

「自律神経系の防衛的なパターン」は、🔴赤の「能動的な防衛モード」が強いパターンだけではありません。主に以下のような状態があります。

A:🔴赤の防衛モードが強いパターン

イライラ、せっかち、焦り、慢性的な緊張など

B:🔵青の防衛モードが強いパターン

無気力、抑うつ的な状態、乖離、麻痺など

C: 🔴と🔵青の両方が強いパターン

高い緊張や興奮(🔴赤)と、動けない・固まる感覚(🔵青)が同時に存在している状態。

例えるなら、アクセルとブレーキを同時に、思いきり踏み込んでいるような状態。

体は固まっているのに、頭の中は焦りや思考でいっぱいなど。

D:Cの状態から🔴(アクセル)のエネルギーが消耗して、🔵(ブレーキ)優位に落ち込むパターン。

緊張の中で頑張り続け、限界を超えたときに一気にシャットダウンするような変化です。
たとえば、平日は無理をして動き続け、週末に寝込むなど、振り子のように極端な状態を行き来することがあります。

「防衛モード」は「悪いもの」ではない。

さて。

ここまで見て来て、🔴赤の「能動的な防衛モード」(交感神経系の防衛状態)になることが、なんだか悪いもののように感じる方もいらっしゃるかもしれません。

けれども、決して「悪いもの」ではありません。

こうした防衛反応は、神経生理的な領域があなたを守ろうとして起きているものです。

危険や危機に直面したときに、ちゃんと🔴赤の「能動的な防衛モード」になれることは、生きていくうえで欠かせない、とても重要な機能です。

道を歩いていて、もしも車が突っ込んできたときに「ぼーっと」していたら、危険すぎますよね😂

頭で考える以前に🔴赤のモードが発動して、

瞬時に身体が緊張し、避ける・逃げるという反応が起きることで、私たちは自分を守ることができるのです。

🔴赤のモードと同じく、🔵青の「受動的な防衛モード」も「悪いもの」ではありません。

闘うことも逃げることもできない(🔴赤モードが通用しない)ほどの圧倒的な脅威に対して、🔵青の「受動的な防衛モード」でエネルギーを最小限にして、環境が変わるのを待つことで自分を守るという戦略。

これも、生き延びるための大切なシステムです。

問題は、危険が去ったあと。

このように、危機的な状況において「防衛モード」が作動することは、生存のための正しい反応です。

問題なのは、危険が去った後も、🟢緑の「安全モード」に戻れなくなってしまった状態
つまり「防衛スイッチ」が入ったまま、オフにできなくなっている状態です。

本来は、危険が去れば、自然に
「🔴赤、🔵(防衛)→ 🟢緑(安全・回復)」に戻ります。

🟢🔴赤、🔵 それぞれのモードを、その時の環境や状況に応じて「行ったり来たり」できること。

それが、神経系にとっての健康な状態です。

ところが、防衛モードが長く続き、それが自律神経系の「パターン」になっていると、

🟢緑の「安全モード」に戻りづらい状態になっている場合があります。

こうした状態においては、パターンになってしまった防衛モードをゆるめて、
🟢緑の「安全モード」に戻れる状態にしていってあげることが助けになります。

ちなみに、🔴赤のモードが長く続くと、心身には次のような状態が現れやすくなります。

  • 常にどこか緊張している
  • 常に落ち着かない、何かせずにいられない
  • 休んでも休んだ感じがしない など。

これは、生理的にも負荷がかかり続けている状態

アクセルを強く踏みっぱなしで走り続けているようなものです。

これが続けば、心身は消耗していってしまいます。

自律神経系のパターンは、どうすれば変わっていくのか?

では、この自律神経系のパターンは、どうすれば変わっていくのでしょうか。

次の記事では、その具体的なプロセスと、「イライラを抑えようとして苦しくなってしまう理由」などについてお話ししていきます。

「イライラやせっかちな自分の傾向を変えて行けたら…」

そう思われる方は、ぜひ続けて読んでみてくださいね。

なお、ポリヴェーガル理論は、現時点で科学的に完全に確立されたものではなく、研究途上の理論として位置づけられています。
神経の進化的な階層構造に関する解剖学的解釈については、一部の神経科学者から異議が出ているなど、批判や議論があることも事実です。
しかしながら、臨床の現場では、人の状態やトラウマ反応を理解するうえで深い示唆を与えてくれる有用なモデルとして広く活用されており、私自身も実践的な価値を実感しています。

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