「感情を感じ切れば癒される」は間違い!?
こちらの記事は、前回の記事の続きです。

「感情は、感じ切れば消える・変化する・癒される」
果たして本当にそう言えるのか?
前回の記事では、このテーマについて、
「感じ切っても癒しや変容に繋がらない」ことがある理由として、以下の2つを挙げました。
- 「表層の感情」だけを感じ切ろうとしている場合
- 「キャパシティ(今の自分が安全に処理できる範囲)」を超えてしまっている場合
前回は、ひとつ目の理由「表層の感情だけを感じ切ろうとしている場合」についてお伝えしました。
今回は、もう一つの重要な理由、
「キャパシティ(心身が安全に処理できる範囲)」を超えてしまっている場合
について、詳しくお話ししていきます。
「感じ切っているつもりだけれど、変化が感じられない…」
「向き合っているのに、どうしても変わらない…」
「頑張るほど、苦しくなってしまう…」
そんな方にこそ知っていただきたい、大切な視点です。
理由②「キャパシティ(処理できる範囲)」を超えている場合。
感情や感覚が「その人の自律神経系などの身体的・生理的なキャパシティ内(いわば「圧倒されず、安全に処理できる範囲内」のようなもの)」にある場合、
確かに「感じ切れば消える・流れていく」ということは起こります。
しかし、キャパシティを大きく超えた強い感情や感覚は、
ただ感じ切ろうとするだけでは変容につながりません。
このことを、ある講座でアメリカ人の講師がこんな言葉で表現していました。
「その感情や感覚に圧倒されているとき(つまりキャパシティを大聞く超えている時)に、
癒しは起こらない。」
この言葉を聞いた時、とても分かりやすい表現だなあ!と思いました。
これが、私たち人間の「仕組み」なのです。
「仕組み」から外れていると、「取り組んでも、なかなか変化を感じられない…」ということに繋がってしまう可能性もあります。
もちろん、”「仕組み」に則ってさえいれば必ず100%効果を感じられる”とまでは言えませんが、再現性が高いことは事実です。
「キャパシティ」とは。
ここで言う「キャパシティ(処理できる範囲)」とは、
自律神経系などの身体的・生理的レベルでのキャパシティのことを指します。
いわば「心身の土台」のようなもので、その人の自律神経系の状態と深く関わっています。
このキャパシティの大きさは、人によって異なります。
生まれ育った環境に影響を受けるためです。
胎児期~3歳頃までに安定した愛着を築けた人は、キャパシティ(心身の土台)が大きく、安定している傾向があります。
一方で、トラウマを抱えている人は、このキャパシティが小さいことが多く、
特に発達性トラウマ(幼少期のトラウマ)を持つ人は、ほぼ間違いなく「非常に小さい」傾向があります。
その小さなキャパシティで、強い感情や感覚を「感じ切ろう」と頑張ると、
それは多くの場合、キャパシティをオーバーしている状態になってしまいます。
すると、感じ切るどころか、かえって圧倒されてしまい、
逆に苦しみが増してしまうことにもなりかねないのです。
キャパシティ(耐性の窓)が小さいとどうなるのか?
例えば、水を汲む器を想像してみてください。
🔹器( キャパシティ)が大きい⇒大量の水(感情)を受け止められる
🔹器(キャパシティ)が小さい⇒すぐに溢れてしまう(圧倒されてしまう)
もし小さな器に、大量の水を一気に注いだらどうなるでしょう?
溢れてしまい、器の外にこぼれてしまいますよね。
これは、私たちの心や身体が感情や感覚を処理する仕組みとよく似ています。
このように、器(キャパシティ)が小さい状態で、
自分の器を大きく上回る感情、
それらを「感じ切ればいい」と一生懸命に感じることで、
溢れて(=圧倒されて)しまい、トラウマの再体験としてさらに苦しみを強めてしまうことに繋がる場合もあるのです。
安全に感情を感じるために大切なこと。
癒しや変容のために大切なのは、次の2つです。
- キャパシティを大きく超えない「大丈夫な範囲」で、少しずつ向き合っていくこと。
- キャパシティそのものを少しずつ育てていくこと。
この2つは、どちらも欠かせない大切なポイントです。
そしてさらに、とても大切な前提があります。
重要なポイントはこれ!
そしてさらに、とても重要なこと。
それは、
この「キャパシティ(=耐性の窓)」は、
単なる「気持の持ちよう」や「意識の持ちよう」など精神論ではないということ。
先にもお伝えしたように、「キャパシティ(=耐性の窓)」とは、
「自律神経系などの身体的・生理的な領域」の話です。
自律神経系などの「身体的・生理的な領域で受け入れが起きている」とき、
つまりは「圧倒されていない」ときに、
癒しや変容が起きてきます。
つまり、
いくらマインドや認識の領域で、
「この感情を感じ切ろう」
「この感覚を受け入れよう」と頑張っても、
身体的・生理的なレベルで「圧倒された状態」であれば、
癒しや変容には繋がりにくいのです。
ですから、
「感情を感じるのが辛い」
「なんだか圧倒されているかも…」
と感じるときには、
まず、身体的・生理的な領域(=神経系)にアプローチしていくことが必要な場合があるのです。
私自身もかつてこのことを知らずに、「感じ切れば変わるはず」と何度も頑張って感情と向き合い、なのに変わらない…と苦しんだ時期がありました。
また、「これまで色々な癒しに取り組んできたけれど、楽にならない…」とおっしゃるクライアントさんの背景にも、この「キャパシティ(器)」の問題が関わっていることがとても多いと感じています。
これは、癒しにおいて非常に大切なポイントだと思っていますし、多くの方に知っていただけたらと願っています。
では、どうすればいいのか?
- キャパシティの範囲内で向き合うには?
- どうすればキャパシティを育て、広げていけるのか?
を見て行きましょう^^
大丈夫な範囲で、少しずつ向き合うこと
まず大切なのは、
「無理に感じ切ろう」と頑張るのではなく、
「大丈夫な範囲」、つまり圧倒されないレベルで少しずつ向き合うことです。
これは別の表現をすると、
その感情と同化するのではなく、
「今ここ」の「大丈夫なところ(感覚)」から、その感情に繋がっていく。
ということ。
この「今ここの大丈夫なところ(感覚)」というのが、
いわば、「キャパシティの大きさ」と言えます。
キャパシティ超えは「抵抗」にも繋がる。
キャパシティを超えてしまっている場合、
つまり、感情に圧倒されている状態では(※圧倒されていることに自分で気づいていない場合も多々あります。)
それは「抵抗」という形で現れることもあります。
「抵抗」の例として、次のようなものがあります。
- その感情を「変えたい」「何とかしたい」という意識が強くなり、その感情をそのまま感じてあげられない状態。
⇒圧倒されているために、感情と一緒に居ることができず、「変えたい」「消したい」となる。 - 感じているようで、どこか本当には感じることを避けている状態(この時のサインとして、身体が固くなっていたりします。)
⇒頭(マインド)では感じているつもりでも、神経系や身体のレベルではキャパオーバーで、受け容れてそのまま感じることが難しくなっている。
抵抗があれば、当然、変化や変容には繋がりにくい。
このような「抵抗」なく、真にその感情を受け容れてそのまま感じてあげるには、
キャパシティの範囲であること—
つまり、「その感情を感じても大丈夫だ」いう感覚が、ちゃんと自分の内側に存在していること。
がとても重要です。
「その感情を感じるのが怖い」
「どうしても抵抗してしまう」
そんなとき、
それはあなたが弱いからでも、ダメだからでもなく、
「今のキャパシティを超えてしまっている」、
そのことが原因として存在しているのかもしれません。
こんな風に、たとえば
「できない自分はダメだ」と思ってしまっていることも、
「正しい仕組み」を知ることで、「だからだったのか!」と本当の原因が分かる場合もあります。
そういう意味でも、心や神経系の仕組みを知っていくことは大切だと思います^^
「大丈夫な感覚」を育てていく。
「感情を感じるのが辛い」
「圧倒されているかも…」
と感じる場合は、
トラウマ的な感情や感覚と向き合うよりも、
まずは「身体的な安心感や心地よさを感じていくこと」をお勧めします。
なぜなら、それが「キャパシティ(=耐性の窓)」を育て、大きくしていくことに繋がるからです。
身体的に「大丈夫な感覚」を知って行く。
内側にその感覚を育てていく。
そのことによって、「キャパシティ(=耐性の窓)」が広がっていきます。

キャパシティ(耐性の窓)を広げていくために日常でできること。
「身体的な安心感や心地よさを感じていくこと」は、キャパシティを育て、広げていくうえでとても大切なプロセスです。
そのために、日常の中でもできることがあります。
それは、
自分にとっての「安心を感じられる時間」や「心地よさを感じられる時間」を意識的に持つこと。
例えば、こんなことが挙げられます。
- 木や花、空などの自然を感じる
- 好きな香りを嗅ぐ
- 穏やかで優しいトーンの音楽を聴く
- ゆったりお風呂に入る
- 鳥のさえずりや雨音、風の音など、心地よい自然の音を聞く
- ペットとの触れ合う、可愛い動物の動画を観る
- 好きな飲み物をゆっくり味わって飲む
- 好きなお笑いを見て笑う
- 焚火など、神経系が落ち着く効果のある動画を観る
- 安心できる友人と楽しく話す
- ヨガなどの緩やかなエクササイズや瞑想
- セルフタッチ…触れて心地よいと感じる身体の部分に触れる
などなど。
大げさなことである必要はありません。
ご自分が「ちょっとほっとする感じ」「なんとなく楽な感じ」があればOKです^^
こうした「心地よさ」や「安心感」、「自分らしくいられる感覚」を日々味わっていくことは、
少しずつキャパシティ(耐性の窓)を育て、広げていくことに繋がります。
そして、いちばん大切なのは、
世間で「これが良い」と言われているものをそのまま実践するよりも、
あなた自身が「安心できる」とか「心地よい」と感じられるかどうか。
自分に合った「安心」や「心地よさ」は、人それぞれだからです。
「自分にとっての安心や心地よさ」を少しずつ探してみることも、「自分を大切にすること」に繋がっていきます。

トラウマの影響が大きい場合に大切なこと。
しかしながら、特にトラウマの影響が大きい場合などは、心地よさや安心感を感じることが難しい場合もあります。
また、トラウマや大きな感情に自分ひとりで取り組むことは、非常に難しいことでもあるので、プロのサポートを受けた方が、安全かつ確実です。
特に、こうした知識を持つSE™療法(ソマティック・エクスペリエンシング)などのトラウマ療法のプラクティショナー資格を持つセラピストのサポートを受けることをおすすめします。
なお、ずっとプロのセッションを受け続けなければならないわけではありません。
セッションによって少しずつキャパシティが大きくなっていきますし、
セッションを通じて体験を積む中で「キャパシティの範囲内で扱うとはどういうことか」が分かるようになっていくので、やがて自分自身でも対応できる力がついていきます。
この記事が、かつての私のように「癒しに一生懸命取り組んでいるのに、なかなか変わらない…」と感じている方にとって、何か少しでも参考になれば、とても嬉しく思います^^