「トラウマと向き合うのが辛い」と感じている方へ。

「トラウマや心と向き合うのが辛い」という方は…

「トラウマや心と向き合うのが辛い」というのは、
「自分にはトラウマがあるかもしれない。向き合う必要があるかもしれないが、一歩が踏み出せない」という方も居れば、
「これまで色々な癒しに取り組んでトラウマや心と向き合って来たが、向き合うほどに、さらにどんどん辛くなってしまった」という方も居ます。

当方のセッションを受けてくださる方の中には、後者のような方がそれなりにいらっしゃいます。

ご自分にトラウマの癒しが必要だと自覚をされて(これがもう素晴らしいことです!)、
トラウマや心と向き合ってきたにも関わらず、楽になるどころかさらに辛くなってしまった…

これを読んでくださっている方の中にも、そういう方がいらっしゃるかもしれませんね。

「トラウマと向き合うほどに余計に辛くなる」なぜそのようなことが起こるのか?

なぜそのようなことが起こるのか。

それには様々な要因があると思いますが、そのひとつとして考えられるのが、
「向き合う対象が、その方の自律神経のキャパを大きく超えてしまっている」ということ。

私自身も、心と向き合う手法の癒しに取り組んでずいぶん楽になったものの、それでも変わらない部分があると感じていました。
それは何なのか、どうしたらいいのかを知りたくて色々と学ぶ中で、
「トラウマは神経系の中にある」とするソマティックなセラピーや、
新しい自律神経理論でありトラウマ療法と深く結びつく「ポリヴェーガル理論」に出会い、
自分の、あまり変わらなかった部分に必要なアプローチはこれだと感じました。

それまで、癒しに取り組む中で私には大きな疑問がありました。
その疑問とは、「同じように取り組んでも、変化や効果を感じられる人と、あまり感じられない人がいる」ということ。(色々な場面で私は「変化や効果を感じられない人」であることが多かった。)

もちろんそれには色々な理由があるだろうけれど、何かひとつ、ある種の「ライン」のようなものがあるように感じていました。
けれども、それが明確に何なのかは分からない。

ソマティックなセラピーやポリヴェーガル理論について学ぶ中で、ある講座でアメリカ人講師が言った言葉が、私の疑問の答えとなるひとつの要素を、端的に表していると感じました。

それは、

圧倒された状態では癒しは起こらない

という言葉でした。

圧倒された状態では癒しは起こらない

「圧倒された状態」というのは、例えば恐怖に圧倒されて凍り付いて動けない、というような状態のことです。
これは「その人のキャパシティを大きく超えた状態」とも表現できます。

そして実は、このキャパシティというのは、「心のキャパシティ」というよりも「自律神経系のキャパシティ」です。

つまり「圧倒された状態では癒しは起こらない」というのを言い換えてみると、
自律神経系のキャパシティを大きく超えた状態では、癒しは起こらない」ということだと、私は理解しています。

自分のキャパシティを大きく超えたトラウマに向き合うのは、登山の初心者がエベレストに挑むようなものだと言えます。
自分のキャパに合っていないから、もちろん上手く行かない。
初心者はまず、関東なら高尾山とか筑波山とか初心者でも登れる山に登って、しっかり登頂して、気持ち良さや楽しさ、達成感を味わう。
そうしたら次はもう少し難易度の高い山に挑戦してみる…そうやって少しずつ体力や実力を付けて、いずれは目標とする山に挑む。
実はトラウマ療法も、これと同じような部分があるのです。

キャパシティに合わせて、ゆっくりと少しずつ。

トラウマ療法において「その人のキャパシティに合わせてゆっくりと少しずつ」というのを、現在私が学んでいるソマティックなセラピーでは「タイトレーション」と呼びます。
「少しずつ」だから遠回りのようだけれど、でもそれは、私たちの自律神経系などの生理的な仕組みに適っているので確実な変化に繋がって行き、むしろ近道であるとされています。

「トラウマや心と向き合っても、どんどん辛くなる…」と感じている方は、
もしかすると、キャパシティを超えたトラウマ(感情や感覚)に取り組まれて来たという可能性があるわけです。
(場合によっては、キャパシティを超えたトラウマに向き合うことで「トラウマの再体験」になってしまい、症状の悪化と感じられることがあります。)

もちろん、癒しが起こる・起こらないとか、効果を感じる・感じないとかが、この「キャパシティ超え」という要素だけに左右されるわけではありません。
人間は非常に複雑な存在なので、ひとりひとりの心身の状態はまったく異なるし、当然、必要なアプローチも違います。

けれども、癒しに関する大切な要素のひとつとして、このことはぜひ多くの方に知っていただけたらと思うのです。
というか、私がもっと早く知りたかった…笑

余談ですが。
セラピーにおいて「激しく感情を表現する」といった手法についても少々。

例えば、私が実際にあるワークショップで見たのは、親への怒りを叫びながら、丸めた新聞紙で机をバンバン叩くというようなワークでした。
それが、クライアント自身の深いところから自然に出てきたものであれば良いと思うのですが、このケースでは、セラピストがクライアントにそれを行うように指示をしていました。
こういったワークの場合、その時はスッキリ感を感じたとしても、実は変化・変容には繋がらない場合も多く見られます。
(※こういった種類のワークをすべて否定するものではありません。)

▼こちらの動画で詳しく語っています。ご参考にどうぞ^^

効果を感じられなかった取り組みは「無駄」だったのか?

ここまで読んでいただいて、「じゃあ効果を感じられなかったそれまでの取り組みは無駄だったの?」と思って、やりきれない気持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。
でも安心してください。そんなことはありません。
自分に合った方法・ペースで癒しが進んで行くと、あるところで、過去の取り組みが自分の中で繋がる・統合される時期がやって来ます。

私もそういう体験を重ねてきました。
そして現在、「心と向き合うこと(「オープン・アウェアネス・ダイアローグ」や「パーツ心理学」など)」と、「ソマティックなアプローチ」を組み合わせてセッションを提供しています。
自分の心の構造を見ていくことと、生理学的にトラウマを見て行くこと、そのどちらもが大切だと感じているからです。

トラウマと向き合うというのは、確かに辛さを伴う時もあります。
けれどもそれは、辛いばかりの道ではありません^^
自分の本当の気持ちや、嫌っていた部分が実は何よりも自分を助けていてくれたこと、自分の内側の愛や力、生きものとしての人間の叡智などなど…様々な美しさやかけがえのないものと出会う道でもあります。

もしも「トラウマと向き合ってもまったく楽にならず、どんどん辛くなる」というような場合、それは、あなたに合った方法ではない可能性があります。

トラウマ療法を必要としている方が、ひとりでも多く、ご自身に合った療法や情報に出会われることを願ってやみません。

同様の内容を「パーツ心理学」の観点から図解・イラストで説明した資料を作成しています。
イラストですので、併せてご覧いただくとイメージがつきやすいかもしれません^^
こちらもどうぞ!

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